ドイツのオーキャンプ

　　1920年代にはイギリス、フランス、アメリカなど他の欧米先進国に比べてドイツではオートキャンプはそれほど盛んではありませんでした。ドイツには十分な牽引力を持った量産自動車がなく、キャンプの移動手段は自転車、オートバイ、カヌーなどが中心でした。なかでもカヌーキャンプが盛んで、河川や湖畔には多数のカヌーキャンプ場が設けられていました。1934年にＦＩＣＣ（国際キャンピング＆キャラバニング連盟）に加盟したのもドイツ･カヌー連盟でした。

　ドイツではインフレ、戦争賠償金の支払い、不十分な道路網、高い燃料代が自動車の普及を阻んでおり、1930 年に自動車の登録台数は約50万台に過ぎませんでした。当時フランスとイギリスでは登録台数がすでに 150万台以上に達していたのと比べると大きく遅れをとっていました。しかし1933年にヒトラーが政権を握ると、モータリゼーションを国策として掲げ、アウトバーンの建設やフォルクスワーゲン（国民車）の開発に乗り出しました。そうした背景でドイツでもキャラバンが製造されるようになりました。その先駆けとなったのは後に世界有数のキャンピングカーメーカーとなるデスレフの手作りのキャラバンでした。

　1935年にはドイツで最初のテントトレーラーが量産され、1936年にはドイツキャンプ場連盟が発足しました。翌1937年にはドイツで初めて第5回ＦＩＣＣ世界大会が開催され、約2000人が参加しました。この大会で初めてキャラバンが見られるようになりました。1938年ベルリンで開催された国際自動車ショーには10のキャラバンメーカーが出展しました。

　しかし第二次大戦によってドイツは自動車産業の80％が破壊されました。そのうえ連合軍により旅行禁止命令が出され、外貨も年間500ＤＭに制限されるなどの外的要因により、オートキャンプは戦後しばらく衰退状態が続きました。

　その一方で、連合国の支援を受けながら1945年にフォルクスワーゲン、1946年にダイムラー・ベンツ、1947年にオペル、1948年にフォードと、大手自動車メーカーが相次いで生産を再開し、早くも1951年には乗用車の生産台数は1938年の水準を回復しました。

　こうした状況のなかで1948年、西ドイツ地区占領軍の特別の許可を得てドイツ・キャンピング・クラブ（ＤＣＣ）が設立されました。創立者で初代会長のマックス・エッケルトが、「キャンプの普及はドイツの民主化に寄与する」と司令部を説き伏せたのです。彼はまたドイツの新しいキャンプ運動の中心に車を据えることを提唱して、ドイツにおけるオートキャンプの火付け役ともなりました。ドイツ・キャンピングクラブは1950年にＦＩＣＣに加盟しました。

　1950年代になるとドイツは奇跡の経済復興をなしとげます。所得と余暇時間が増えるとともに、連合軍も旅行規制を解除したためにオートキャンプが盛んになっていきました。1951年にはテントキャンパーの数は100万人を超えました。多くの庶民がマイカーを持てるようになるに連れて、キャンピングトレーラーを牽引するキャラバニングも広まりました。それに伴い戦前からあるカヌーキャンプ場は次第に近代的なオートキャンプ場に改造されていきました。

　1957年に第18回ＦＩＣＣ世界大会がシュトゥットガルトで開催されました。戦後では初めて、ＦＩＣＣの歴史では2度目となるこのドイツの大会には25か国から7323人が参加して、過去最大の規模となりました。

: 第18回FICC世界大会(1957年シュトゥットガルト)

　1960年代は休暇をキャラバンで過ごす人々が増え、キャラバンの製造台数も急増しました。1962年秋にはエッセンで第１回キャラバン・サロンが開催されました。8ホールからなる会場に8か国から6１社が出展し、34,500人の来場者を集めました。

: 第1回キャラバンサロン（1962)

　1962年、オーストリアと国境を接するオーバーバイエルン地方のルーポルディンクで第23回ＦＩＣＣ世界大会が開催され、17か国から2619人が参加しました。ラウシュベルク山のふもとに自動車876台、テント573張り、キャラバン438台が整然と立ち並びました。

: 第23回FICC世界大会(1962年ルーポルディンク)

　1970年代に入ると自走式のモーターキャラバンが次第に人気を集めました。モーターキャラバンの保有台数は1969年以来15～17パーセントの割合で増え､2002年には約45万台に達しました。キャンパー人口も1981年に300万人の大台に乗せたあと順調に増え続け、2000年には1200万人を数えました。

　ドイツは現在もヨーロッパ最大のキャンプ大国としての揺るぎない地位を保っています。